コンタクトセンター・レベルアップ講座 第7回(最終回)


「共創社会」を勝ち抜くサービス改革
キーワードは“科学”と“顧客視点”
著者:消費者の声研究所増田由美子
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本連載は、SNSの進展やグローバリゼーションの拡がりのなかでコンタクトセンターを「顧客や消費者に選ばれるサービス」にマッチさせるべく、顧客志向マネジメントを解説してきた。最終回では、これまでの振り返りと、実際に顧客視点改革のタスクやプロジェクトを現場で推進するための考え方やポイントをみる。

 第1回では、消費生活のパラダイムシフトとコンタクトセンターの関係について概説した。ソーシャル&ビックデータ時代に、企業活動そのものが「ソーシャルエンタープライズ」にシフトしていることと、そのうえでコンタクトセンターが企業のなかで改めて重要視されてきている背景および過去との違いをしっかり認識しておくことの重要性を述べた。企業のビジネスモデルを、生活者や顧客について理解し経験を共有するものへと組み替えていく必然が今はあるということだ。これを踏まえたうえで、企業の「CRM活動やCS向上の最重要現場」としてコンタクトセンターを捉える必要がある。

 第2回目では、「CSマネジメント」と「産業のサービス化」の視点から、今後のコンタクトセンターの経営機能とマネジメントの方向性を示した。コンタクトセンターは、①顧客接点業務およびCS向上や顧客志向経営に向けた消費者の評価データの収集・分析、②CSマネジメント――2つの経営機能を持つが、今後は、①を顧客視点から最適化しつつ、②の機能強化を図り、両輪でのセンターの収益貢献を高めていくことがより求められてくる。

 第3回目では、サービスの4大特性(無形性、同時性、消滅性、異質性)を踏まえて、自然科学的なアプローチでサービスの本質を理解することの重要性と、サービス科学の「分類」「分解」「モデル化」のフレームをコンタクトセンターの顧客視点からのマネジメントやセンター改革に適用していくことの有用性を取り上げた。

 第4回目以降は顧客視点からのセンターマネジメントの各論として、「センターの顧客特定と分類」「VOC活用」「センター業績・経営貢献の示し方」の3テーマについて各回で取り上げてきた。


データを顧客視点で分析し
優先順位や満足因子を見出す


 各論で共通して説明していることは、顧客視点運営の考え方として、提供プロセスの可視化やサービス品質の分類・分解、データ分析などを「顧客視点」から実施することの重要さだ。

 たとえばセンターの顧客分類では、用件や状況によって満足因子や品質要素が異なることから、顧客の事前期待の軸で分類してみると、セグメントごとの対応品質上優先すべき要素や満足因子の組み合わせが見えてくる。

 VOCでは、声を商品や用件・処理区分でソート(分類)するだけでなく、この事前期待(顧客視点)軸での顧客セグメントでソートをかけたり、用件区分とのクロスで分析することで、顧客の行動背景やインサイト(真意)に踏み込んだ問題仮説をたてることができる。

 さらに、顧客視点からの分類・分析軸を新たに持つことで、これまでのセンターマネジメントで可視化や数値化が難かった提供サービス品質領域の管理や評価を人と勘に依存した段階から脱却することも可能になる。
 

迅速性・正確性は最重要要素
効率と品質は相反しない!


 ここから、顧客視点運営力の高いセンターを目指した改善・改革を具体的にどのように進めていけば良いのか、科学的なアプローチの「モデル化」にも触れながらプロジェクト推進のポイントを解説する。

 顧客視点運営のセンター改革プロジェクトというと、システム更改時の次世代センター構築プロジェクトのような大掛かりなものを想像するかもしれない。だが実際は、いわゆる「あたり前(基本)品質(ビジネスマナー、言葉遣い、親切丁寧な対応など)」は高位標準化をほぼ達成し、次の段階を目指す際の「品質」に関わるものや、現行の「センター品質」に何か問題事象が発生してプロジェクトを立ち上げるといった身近なケースが多い。

 「品質」のスコープとして、留意すべき点がある。サービス品質の「迅速性」「正確性」はセンターにとって最重要な品質要素のひとつ(ベースライン)だ。その意味では、品質は顧客視点からの効率も含めて考える必要があり、「効率」と「品質」は決して相反するものではない。つまり、提供品質の向上で顧客満足や顧客経験価値が上がるだけでなく、サービス提供組織の効果性と効率性を上げることにもつながってくることも忘れてはならないということだ。

 プロジェクト推進のポイントは、下記の3点に集約される。
・スコープを絞り込む
・顧客視点からの分析軸で問題仮説を設定する
・QuickHitでスモールスタートが可能な施策を試行してから拡大展開していく


音声ログの分析をもとに
CSを下げず大幅な効率改善


  図1は、CS重視で一部のオペレーションに問題(長時間対応の増加など)が発生したセンターでの改善プロジェクトのスコープ、分析軸、実施ステップを表したものだ。


 この改善プロジェクトの期間は3カ月だったため、「長時間対応の発生原因」の仮説設定を簡易な現行分析から行い、音声ログの詳細分析でその発生メカニズムを明確にした。「顧客」「サービス提供者」「結果品質に影響を与える要因」の3つの分析視点から問題発生メカニズムを炙り出せるような分析シートを用いて、音声ログを詳細に分析したものだ。

 顧客分類としては「商品リテラシー」と「理解力」の2軸4象限上に、6つに分類。QuickHitsのために、母数は他より小さくてもビジネスインパクトのある2セグメントに対する施策案(キークエッションでの顧客分類と2セグメントへの新フローでの対応)を策定して試行した。

 まず、時間をかけても問題が解決せず顧客オペレーター共々疲弊してしまうといった、事前期待のマネジメントの視点から見てもむしろ過剰といえるようなサービスが提供サービス品質の低下や長時間化を誘因していたことが分かった。

 結果、CSレベルを下げずに大幅な効率改善ができ、その後のオペレーション全体を顧客視点運営(=プロセスのモデル化)に展開していった。


科学的にサービスを可視化すると
「顧客像」「問題点」が見える


  これまでのセンターの顧客対応は、概して、用件や商品、業務機能別に対応ルールや処理プロセスが設計されてきた。「お客さま満足向上」が謳われながらも、「顧客」自体を一括りで対応しているセンターはまだ圧倒的に多い。

 今後の国内市場を見通すと、「顧客接点業務の集約」がコアミッションのセンターといえども、業種業態にかかわらず、さらに高齢化するシニア層とデジタル世代では、リテラシーや価値軸がまったく異なってくる。また、顧客間の差異と併せてサービス提供者と顧客との世代ギャップを考えると、均一的な処理プロセスや画一的なフロントの対応で対応していくことは早晩難しくなるに違いない。CSや提供品質の低下だけでなく、膨大なコスト増や個客離反のリスクを抱えることになるからだ。

 だからこそ、センター管理者の皆さんには、「サービスのプロ」としてサービスの特性や本質をしっかり学習し、これまでのセンターマネジメントのレベルをもう一段階顧客視点からブレイクダウンするチャレンジを是非していただきたい。

 その際活かしてほしいアプローチ手法がサービスを科学的に扱って可視化していくやり方だ。「分類」「分解」は決して難しい手法ではない。これまでの業務改善活動や業務設計の中でも用いていたはずだ。それらを顧客視点(軸)からのテンプレートに作り変えるだけで、これまで見えていなかった、または見え難かった顧客像や品質の中身、提供プロセス上での問題点などが明らかになってくるはずだ。

 問題が明らかになれば、部分的に小さく打ち手を打つことは容易い。まずは、オペレーションや音声ログの顧客視点からの分析に勇気をもって第一歩を踏み出してみてほしい。


自センターのアセスメントから
ビジネスモデルの再構築を図る


  これからの付加価値競争社会で勝ち抜いていくためには、顧客や社員も含めた関係者(社)との価値共創できるような新しい顧客接点の「ビジネスモデル」の創出がセンターにも求められてくるだろう。

 そのためには、一気に新たなビジネスモデルの創出にいくことはできないので、まずは既存のコンタクトセンターのモデルを用いて、自センターのアセスメントをしてみると良い。

 コンタクトセンターのモデルとしては、規格監査モデルとしての「COPC」や、日本コンタクトセンター教育検定協会のコンピテンシーモデルの「CMBOK」が有名だが、今回は、筆者も監修に関わったエル・ティー・エスともしもしホットラインの2社で作成した「PMCC:Positioning Model for Contact Center 」の機能構成モデル図を参考に掲載(図3)しておく。これはコンタクトセンターの「経営貢献」の立ち位置を示すモデル図として作成されたものだ。

 「コンタクトセンターの経営貢献」の姿を明確にするとともに、レベルに応じた「コンタクトセンターの次のステップ」「そのための実行要素」を明確にすることでコンタクトセンターの地位向上を担い、それらを通して企業のCCRM(Customer Centric Relationship Management:顧客中心主義経営)にセンターが寄与することができることを目指して作成した。
 センターの機能構造や成熟度合い、サービスケイパビリティ(提供能力)レベルを既存モデル図を参考にしながら客観的に把握しておくことは、今後の自センターの方向性やTO BEを描く際に非常に有用だ。

サービスイノベーターになり
『顧客視点運営力』を高める


 『サービスを制するものが、ビジネスを制する』とまでいわれるサービスイノベーションの時代。「共創型ネット社会」へのパラダイムシフトのなかで、生活者(市場)との新たなつながりを基軸とするビジネスモデルを模索する企業の顧客フロントとして、コンタクトセンター自らがサービスイノベーター(改革者)としてのマネジメントができるかどうかはますます重要になってくる。まずその一歩を恐れずに踏み出し、やってみてほしい。コンタクトセンターの顧客視点運営力を高めるために、是非とも「リーン・イン(先ずやってみる)」してみていただきたい。本連載がその始めの一歩の手助けとなることを願っている。


(コンピューターテレフォニー2013年12月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年12月20日 12時24分 更新

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