コンタクトセンター・レベルアップ講座 第6回


経営の「なぜ?」に数値で答える
『存在意義』と『貢献』の示し方
著者:消費者の声研究所増田由美子
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直接収益をあげることができないコールセンターは、「業績」を示すことが難しい。だが、会社組織の一部である以上、「存在意義」が必ずありそれに基づいた業務の成果もある。CMSレポートをはじめ、業務結果を数値化するツールには恵まれている。課題は、経営ミッションにリンクしたビジネスKPIの設定と、目標達成までのプロセス品質の数値化だ。

 コールセンターは、就労人口が推計90万(2010年3月コールセンター人材能力評価システム事業推進コンソーシアム報告書より)ともいわれ、ITサービス業の中核を担っていることは紛れもない事実だ。

 その一方で、「コミュニケータ」「CSR(Customer Service Representative)」などと呼称されるフロント人材の大半が非正規雇用であることからも分かるように、企業の経営層から見ると顧客接点の「(規模的に)最大の現場」という以外にあまり理解されているとは言えないのが現状だ。

 何故あまり理解されず、社内の位置付けも相対低いのだろうか。
 その理由は、①センター現場から報告される内容がサービスレベル応答率やATHなどの専門指標項目が大半で理解しにくい、②センターにはあまり優秀な人材が配置されてこない、③経営層が現場を見に来ない(現場を理解しようとしない)、④コンタクトセンターの予算が確保できない、⑤他部門や経営へ収益貢献に対する提案ができない、⑥現場と経営を結びつけるキー人材がいない――などが考えられる。

 つまり、現場には、経営視点からの提案力が欠けており、経営には、現場に対する理解が欠けているのだ。そのため、相互に距離感を感じてしまい溝が埋まらないのだろう。

 今回は、「見せる化」が難しいといわれる「センターの成果(業績)」と「経営貢献」について取り上げる。

 「顧客視点から経営にものがいえる」、センター事業費を「経費」としてではなく、『投資』として稟議申請できる、そのような戦略型のコンタクトセンターにしていくための「経営貢献の示し方」について、サービス科学の「分類」「分解」のフレームを用いながら解説していく。


課題解決の達成度や組織貢献
存在意義を業務結果で示す


 まず、「成果(=業績)」と「経営貢献」の言葉の使い分けについて、明らかにしておく必要がある。

 辞書で「業績」は、「事業や学術研究の上で獲得した成果」と説明されている。つまり「成果」と「業績」は同義語とみなせる。

 「企業業績」についてネット検索してみると、「会社全体の成果だけでなく、部門・所属個人に対しても用いられる」(kotobankより)とあり、「コンタクトセンター業績」もまさに部門業績のひとつと捉えることができる。

 企業全体で用いられる場合の「業績」は、主に売り上げや損益状況(P/L)を意味することが多いが、売り上げ・損益などの財務上の統計数値だけでなく、課題解決の達成度や組織への貢献までを「業績」に含ませ、それらをできるだけ数値化できる評価の仕組みを導入している企業は最近多い。「センター業績」についてもこの考え方を当てはめると良い。

 つまり、「コンタクトセンターの成果(=業績)」とは、センターの存在意義に基づく「業務結果の経営に対する報告」として捉え、単に売上高やコスト削減額だけでなく、経営層が知りたいセンターの「なぜ?」に応える内容でなくてはならないということだ。そして、業務結果は原則「数値」で報告できることが求められる。
 

コスト削減からCSRまで――
センターの経営貢献は4種類

 一方「経営貢献」は、企業収益に対するセンターのかかわりを、「業績」よりも少し広義に捉える際に用いる。論理式を用いてもなかなか数値化できない間接的な貢献や、付随的な貢献も含んでいると理解すれば分かり易い。

 センターの経営貢献を大分類すると、(1)コスト削減、(2)売り上げ拡大、(3)顧客(社員)満足及びロイヤルティ向上、(4)CSR(企業の社会的責任)――の4種類になる。

 センターの経営貢献を考えるには、まず自社センターの月報や四半期レポートの項目を洗い出して、自社センターのマネジメントレベルを確認してみることから始めると良い。

 何項目ぐらいあげれるだろうか。そして、そのレポートは、経営やクライアント部門の下記のような「なぜ」に対する明確な回答を数値や業務結果として提示できているだろうか。具体的には、「なぜ対前年より入電量が増えてコストが嵩んでいるのか」「なぜ自製品事業部のコール単価は他事業部より高いのか」「なぜこの品質施策に費用をかけるのか、追加費用が必要なのか」「なぜこの予算を前年度より多くしているのか」などの疑問だ。


現状はコストに関するKPIを重視
生産性以外の効果測定もすべき


 コンタクトセンターのKPIとは、「センター戦略やセンターのミッションゴール(存在意義に対する達成目標)を実現するための重要な管理項目とその指標」が本来の正しい定義だ。しかし、実際のセンターのKPI管理はシステムから自動的に提供されるCMSデータが中心で、コールマネジメントに主に用いられるオペレーションKPIに集中している傾向が明らかにある。

 受信系センターの管理レポートの典型的な項目は、「受信件数、サービスレベル(○○秒以内の応答率=接続性品質)、平均処理件数などの受信効率の実績結果」「オペレーター稼働率」「一件当たり処理コスト(CPC:Cost per call )」「VOC収集件数、関連部門へのフィードバック件数及び内容傾向(分類)」「品質向上などの施策(研修、CS調査結果など)のトピック」などがある。

 多くのセンター月報を実務で見ているが、シフト遵守や受電効率などの基本的な実績データについて、対前年・対同期比などのシビアな予実管理結果のデータとその原因も分析して月報に記載しているセンターは思いのほか少ない。

 また、顧客満足やロイヤルティ向上は「結果品質」だが、そのプロセス品質の測定や管理は殆どされていないのが実情だ。

 品質についても同様だ。統計管理システムから自動取得できる接続品質などのデータ以外の品質関連項目(モニタリングスコア、ミス率、完了インシデントによる一次解決率、顧客満足指標<CS調査結果スコア、ありがとう率>など)がKPIとして、定常的に測定・レポートされているセンターはまだまだ少ない。恐らくセンター長や管理者は施策にコストを賭ける以上、効果レポートの必要性を感じてはいるが、定性的な効果や間接貢献を業績として、どう測定・評価し、数値化すれば良いのかわからないからであろう。

 よくいわれる通り、測定できないものは管理できないし、管理されていなければ、自ずと月報や四半期の「センター業績」としてレポートすることはできない訳だ。

 図1は、経営貢献の中身を先ほど解説した4つの大項目に分類してから管理項目のレベルにまで分解(構造ツリー化)し、実際のセンターでKPIとして管理されている項目(色がけした項目)をマッピングしたものだ。



 この図で示されているケースを見ても、コスト削減にかなり偏っていることが良く分かる。月報から読み取れることは、コールマネジメント(呼量管理)以外のセンター業務品質、効率化促進施策(ナレッジ活用)、VOC活用などの評価・効果測定はレポートされていないセンターが未だに多くあるということだ。

 主要管理項目(KPI)をセンター管理体系の視点から整理(分類・分解)すると、図2に示す3層構造になる。


 図1~2のフレームを用いて自センターの管理レベルを可視化し、このレベルに留まっている背景を考察し、センター使命・ミッションゴールを再認識・再定義していくと、経営貢献として自センターで「見える化」すべきこと(=ビジネスKPI)が明らかになってくるはずだ。

ビジネスKPI、ミッション、課題
ロジックチェーンを構築する


 最後に、ビジネスKPIの設定・計測についてみる。

 はじめに「ビジネスKPI」を改めて定義する。「ビジネスKPI」とは、センターの経営貢献度を測定する管理項目及びその目標数字だ。具体的な数字目標の前に、ビジネスKPI(管理項目)を「何」に設定するかが極めて重要になる。

 直接的な売り上げ貢献ができないサブチャネルや予算配賦型のカスタマーサポート系のセンターでは、「数字化しにくい」「効果貢献が組織横断」「効果が出るまでに時間がかかる」といった要因で特にビジネスKPIの設定が難しい場合が多い。

 ここで、「ビジネスKPI」設定の考え方とポイントを探っていこう。

 まず、ビジネスKPIの設定プロセスは以下の通りだ(図3)。


1.センターの本質的な存在意義を再確認し、経営(収支)貢献として見せる化すべきこと(=ビジネスKPI)を仮設定する
2.経営貢献度合いを測れるようにするために、センターミッションとビジネスKPIをつなげるロジックを構築する
3.経営課題・センター課題・ビジネスKPIをつなげるロジックを構築する
4.仮設定項目を測定し、結果からロジックチェーンをチューニングしていく

 例を挙げると
センターの存在意義:社内(店舗)ヘルプデスク、センター使命:店舗の顧客対応効率化への貢献、CS向上貢献
経営課題:CSの低下、店舗収益の逓減
センター課題:社内からの信頼性確保、迅速的確な対応
 という店舗ヘルプデスクの場合、
ビジネスKPI:「迅速性KPI(即時解決率/時間)」「社内満足度指数」「ナレッジ提供件数」
ロジック:事前情報提供=>HD問合せ減る=>店舗社員稼働率が向上=>お客さま対応時間の増加=>ソリューション提案が可能=>店舗売り上げアップ
 となる。

 経営課題・センター使命(ミッション)・ビジネスKPIを連鎖できれば、センター成果(業績)がダイレクトに経営貢献を示すことになる。さらに、センターに期待される経営貢献と顧客期待をつなぐロジックをPDCAサイクルで廻していくことができれば、顧客視点からのセンター改革を牽引していくことも可能になるはずだ。

 次回は、本連載の最終回として、顧客視点からのセンター革新事例や活用できる外部モデルの紹介、IT活用の方向性についてみていく。

(コンピューターテレフォニー2013年11月号掲載)

この連載の一覧はこちら

2024年01月31日 18時11分 公開

2013年11月22日 16時28分 更新

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