コンタクトセンター・レベルアップ講座 第4回


自社の顧客は誰ですか?
“タイプ別”事前期待の分類法
著者:消費者の声研究所増田由美子
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CS/顧客視点運営の考え方として、提供プロセスの可視化やサービス品質の分類・分解を「顧客視点」からすることは重要だ。今回は、その「顧客」に焦点を当ててセンターのマネジメントポイントをみる。自社の顧客は誰か、サービス提供の原点である顧客分類とタイプ別対応方針の策定について、その考え方とプロセスを解説する。

 コンタクトセンターの設立目的や期待効果として「顧客満足の向上」を大半(コールセンター実態調査2013の結果は77.8%)のセンターが掲げている。

だが、センター設立目的の「顧客満足」の『顧客』そのものがすべてのセンターで明確になっているだろうか。

センターにとっての「顧客って誰ですか」「どんな人たちですか」という問いに対して、「自社商品ユーザー」「見込み客」の回答以外に、具体的な顧客像をセンターにかかわる全員が即座に説明できるだろうか。

顧客の定義・分類が
「個客」対応の第一歩


これからのコールセンターは、消費者主導の購買モデルやつながりを基軸とする価値変化にも対応していかなければいけない。

今後のセンターのあるべき姿(TO BE)を考えると、「顧客」として十羽一括りではなく、個別対応のできる「個客」として捉え、顧客に企業とのつながり(=engagement)を意識させる対応が重要になることは明白だ。

翻って、実際のインバウンドセンターを見てみると、顧客セグメント(分類)ごとの対応ができているセンターはまだ極めて稀だ。

 『顧客セグメント』といった途端、営業やマーケティングの世界の話と思われがちだ。

事実、これまではCRM構築や営業改革の業務設計で顧客の明確化やセグメント定義が盛んに行われてきた。

センターでは、セールスや見込み客醸成のアウトバウンド業務で、全社CRMで定義された顧客セグメントのどのセグメントをセンター顧客とするか、という議論として取り上げられることが多かった。

 ここでは、センター業務をひとつの「サービス提供」として捉えたサービス革新の視点から、センターの「顧客」定義や分類、顧客の事前期待のマネジメントポイントについて解説する。

誰から電話がかかってくるのか
全ステークホルダーを洗い出す


はじめにセンターの顧客を明確にすることの重要性について考えてみよう。

 新規構築に関わったことがあれば、自センターの「顧客定義」や「対象範囲」を明文化した記憶があるかもしれない。

だが、昨今のセンター管理者の多くは、構築後の運営に関わっている。

このため、センター構築時の重要要件である、自センター顧客の明確な定義や対象範囲を即答できない管理者も多いような気がする。

 例えば、電機製品のカスタマーセンターであれば、一般ユーザーの他に、特約店や量販店の店員、搬入設置担当者、修理委託担当者などからも電話が入ってくる。

少し特殊な業務である自動車損害保険の事故受けセンターであれば、保険加入者から事故調者を委託している会社まで多くの関係者から入電の可能性がある。

自動車損害保険の事故受けセンターに電話をかける顧客は、
・保険加入者(損害保険会社のユーザー)
・事故相手方
・事故相手方の加入している保険会社
・病院・修理会社
・事故調査を委託している会社
・保険加入者が契約した保険代理店
など。

 センターの『顧客』を明確にするということは、関係するすべてのステークホルダーを洗い出し、整理(対象とするかどうか)し、対象の定義と対応方針などを考えておくということだ。

 次にセンターの『顧客分類』について考えてみる。

 自センターがインバウンドのカスタマーセンターやヘルプデスクであれば、何故セールスセンターでもないのに、顧客分類が必要になるのだろうか。と訝るかもしれない。

顧客分類やセグメントを従来のマーケティング理論や考え方の延長で捉えていると、確かにそんな疑問も湧いてくるだろう。

 購買行動や口コミにつながるCSの法則と顧客経験価値の考え方を思い出してほしい。

CSとロイヤルティの基本的な考え方は、
◆事前期待との比較衡量で顧客満足度合いは決まる
◆満足の実績評価が事前期待を上回ると、継続や再購入に繋がり、満足度合いの高い顧客経験の積み重ねがロイヤルティ(ファン化、口コミ推奨)を形成していく

だ。

  センターの顧客対応業務を通して顧客満足を上げるためには、センターユーザーの事前期待を知って、対応することがとりわけ重要になる。

その事前期待を知るということは、すなわち、センターユーザーがどういう顧客で、それぞれどんな事前期待を持ってセンターを利用してくるのかを理解することに他ならない。

だから、ここでの顧客分類は、これまでの基本属性や保有する取引・顧客情報、商品機能ニーズなどからの分類ではなく、顧客がセンター対応に求める『事前期待での分類』になる。

共通/個別/状況/潜在
事前期待の持ち方は4タイプ


 事前期待で分類するためには、「事前期待」そのものについて理解することから始めよう。

 事前期待の持ち方は基本的には以下に挙げる4つのタイプに分けられる。

・共通的な事前期待(できるだけ早くオペレーターにつながってほしい)
・個別的な事前期待(○○ブランドラインの商品が大好き)
・状況で変化する事前期待(今は時間があるからじっくり相談したい)
・潜在的な事前期待(思いもしないサービスを受けて感動した)

 また次の2つは、非常に注意を要する事前期待だ。
・過剰な事前期待(このセンターならなんでもしてもらえる)
・悪意の事前期待(不当な謝罪金をもらいたい)


 最近のセンターは、「共通的な事前期待」への対応はかなり進んでいる。

例えば、敬語や言葉遣いなどの基本的な応対マナーや、会話スピード、サービスレベル応答率などだ。

そのため、顧客から見ても、これらはもはや「当たり前品質」になっており、差別化要素にはなり難い。

 従って、顧客個別に違う期待への対応や、状況に依って変わる事前期待に対する臨機応変な対応、ロイヤルティにつながるような感動経験を与えられる顧客自身が気づいていないような潜在期待に応えていくことが顧客満足度向上の鍵となる。

 顧客視点からのセンターの現状分析を数多く手伝っているが、地道に一生懸命顧客満足の向上に取り組んでいるセンターほど、過剰な事前期待を結果的に煽ってしまう過剰対応になっている顧客タイプが存在していることが分かってくる。

例えば、家電、携帯電話・端末などのデジタル商品や通信メディアのセンターなど、ユーザーの商品リテラシーと商品機能とのギャップが大きくなり易いセンターでは、画一的な親切丁寧な応対や不明な際の再問合せのリードなどがその原因になっている場合が多い。

 つまり、事前期待は、肥満細胞と同様で膨らみやすく、時間の経過と共に高くなる性質を持っている。このことをしっかり理解した上で、センター管理者は競合他社センターのサービスレベルや自社の財務状況からのサービスコストの最適配分の観点から、事前期待のマネジメントを行っていく必要があるということだ。

 事前期待は、サービスの内容(メニュー/品質/価格)、事前期待の持ち方、ユーザー属性、ユーザーの関わり方などで構成される(図1)。

図1 事前期待の構成要素


この考え方をベースに、顧客の事前期待を客観的にとらえてほしい。

対象関係の軸を探す
2軸4象限で分類


 事前期待の性質や構造(構成要素)を理解出来たら次に、どんな事前期待を持っているのかを軸に自社センターの顧客を分類してみよう。

 顧客分類の第一歩は、顧客の「個別的な事前期待」を構成している期待の種類を洗い出すことだ。

 まず、対象関係にある軸を探し、始めは2軸4象限で分類をしてみると良い。

一般的な顧客分類軸は、
・話し方の傾向(積極的に話したい vs 自分から話すのは苦手)
・決定の傾向(自分で決めたい vs お薦めを提示してほしい)
・コスト感覚(高くても良いものが欲しい vs できるだけ安い方がいい)
・説明の傾向(丁寧に話してほしい vs 簡潔に説明してほしい)
などがある。

センター共通の一般的な顧客分類軸としては、話し方、決定の傾向、コスト感覚、説明の傾向などがある。


分類軸は、受注窓口、営業(アウトバウンド)、カスタマーサポート、ヘルプデスク、顧客相談室(クレーム)などセンター種別によって異なる。

場合によっては、より業界・業務の特性に沿った軸が有効な場合もある。例えば、先ほど「顧客」の対象範囲で例に出した損害保険会社の事故受付センターは、「精神状況」「事故対応の方向性<自分の主張中心 vs 被害者の意向中心>」などで顧客の分類すべきだ。

 次に、洗い出した2軸を組み合わせいくつかのマトリックスを作ってみる。

 マトリックスの各象限(タイプ)に顧客傾向を記述していくと、どの2軸をとることで、センターユーザーの全体をカバーすることができるかが次第に分かってくる。

最終的に、自センターの分類軸として使用できる軸を2~3軸に絞り込んでいくと良い。

3軸を使う場合は、一番基本となる2軸に最も強く影響を与える軸を配置する。

 図2は生命保険の加入相談を例としたマトリックスだ。基本軸となる2軸(縦横)と、それに一番影響を与える軸を加えた例である。縦軸がコスト感(保険料への期待値)で、「高くても良い」vs「できるだけ安く抑えたい」で分類している。

図2 お客様分類の例 (生命保険加入相談の場合)


横軸は商品への期待感で、「十分な保障」vs「そこそこな保障」で分けた。縦軸と横軸に一番影響を与える軸として、判断傾向(保障内容を理解して決めたい vs 内容は任せたい)を加え、8タイプの分類マトリックスにしている。

 この場合、実際に検証していくと、高い保険料でそこそこの保障内容で良い顧客タイプは存在しないため、実際の顧客分類としては6パターンを考えればよいことになる。

 「十分な保障をなるべく安くできるプランを勧めて欲しい」となる顧客タイプは過剰期待を持ち易いため、危ない顧客タイプといえる。

対応が一番難しい顧客(図中の危ない顧客タイプの吹き出しのある象限にいる顧客タイプ)であるが、事前期待で顧客を識別することによって、対応方針や施策をコールフローやスクリプト・ルールに落とし込んでいくことが可能になる。

認識からタイプ別方針まで
顧客分解の6ステップ


 コンタクトセンターで、多数の顧客の個別に異なる事前期待に効率的に応えていくためには、センターユーザー(顧客)の分類・分解による、顧客タイプ別の事前期待のマネジメント視点をオペレーションに落とし込んでいくことが鍵となる。

 顧客分解の手順としては、①顧客の範囲認識、②顧客の分類軸の頭だし、③顧客分類マトリックスの作成、④顧客への応対方針策定、⑤顧客タイプの識別方法の認識、⑥前回説明した顧客目線で分解したコールプロセスに顧客タイプの識別とタイプ別対応方針を反映する――となる。

 分類、分解のサービスサイエンス手法を顧客識別に上手く用いて、効果的に顧客満足を高める運営に是非チャレンジいただきたい。

(コンピューターテレフォニー2013年9月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年10月10日 15時41分 更新

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