コンタクトセンター・レベルアップ講座 第3回


『分類』『分解』『モデル化』
サービスを科学する3つの行程
著者:消費者の声研究所増田由美子
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サービスの良し悪しは、その時々の顧客の感性や時代背景などにもよるため比較と再現が難しい。だが、サービス品質向上に取り組むためには、高品質の要素を定義し、それを実践に落とし込まなければならない。今回は、サービスサイエンスの考え方に基づいて、サービス品質を科学的に分析するための考え方とプロセスを解説する。

 今後のセンターの方向性に多大な影響を与える「ソーシャル化」「サービス化」といった時代・環境の変化を踏まえ、それに呼応できるセンター運営の考え方や実践ポイントについて考える。

 コンタクトセンターは、ITを道具に用いて顧客接点業務を提供する『サービス業』であることは明らかだが、センター管理者の中で、センターマネジメントを「サービスマネジメント」として捉えている管理者がどれ程いるだろうか。

すぐ頭に浮かぶのは、サービスレベル(X秒あたりの応答率)をはじめとする接続品質や受発信効率を表すCMSデータ、応対品質のモニタリング評価結果、1呼単価(Cost per Call)などのセンター固有の管理項目や指標ではないだろうか。

 概してセンター管理者の口からは、「センターは特別な職場だから経営者や他の人に理解してもらうことが難しい」との話を良く耳にする。

果たして、コンタクトセンターはメーカでの保守サービスや店舗などの他チャネルでの接客サービス或いは、他のサービス業とまったく異なる特別なサービス業なのだろうか。

 修理(訪問)・飲食・宿泊・理美容・育児などの対面サービスと非対面サービスの違いは確かにある。

だが、「目に見えない」「生産と消費が同時」「在庫できない」「受ける人によって評価が変わる」――という4大サービス特性についてはまったく変わらない。

目に見えない形のないサービスに対する顧客満足を得なければ、提供サービスを通しての再購入や口コミにつながらないことも同じだ。

比較が難しく再現性も乏しい
サービスはコピーで量産できない



 図1は、製造業とサービス業のプロセスフローを比較したものだ。


サービスで顧客に満足してもらうことの難しさが、この図解で良く分かるはずだ。

 生産過程に顧客が絡まない製造業に比べ、サービスの原材料は顧客自身であることが多く、材料を選別することができないうえ、顧客との共同作業でサービスを作っていく。

家電製品などの物品の場合、顧客はネットや店舗で比較検討し機能や価格に対して納得して購入するが、サービスは比較が難しく、顧客自身も評価に自信が持てない。

例えばヘアースタイルでは、本人がいいと思っても、周りの人にけなされると、すぐに満足が崩れてしまう。

 製造業とサービス業のもうひとつの違いは、作りこむ対象と内容だ。製造業は、製品設計情報を鉄板や鉄材などに転写するビジネスだ。

例えば、鉄板に金型プレスで設計情報を転写して、自動車のボディを製造する。サービス業はといえば、サービス設計情報を人に転写するビジネスだ。

したがって、転写が難しく量産できない。時間経過で転写効果が薄れることもある。

 コンタクトセンターの品質維持の難しさもまさにこの『人に転写する』ことの難しさに常に直面している。

 「顧客満足を得る」ことや「人に作りこむ」ことの難しさがサービスの特徴だ。

科学的アプローチで
サービスの本質を理解する



 「サービスが企業の競争優位そのもの」になってきているからこそ、センターのマネジメントを考える際にもまず重要なことは、センターをサービス業の一種として捉え、「センターの提供サービスを如何にマネジメントし、顧客満足を得ていくか」というサービス固有の特性からマネジメントを考える、『サービスマネジメントの視点』だ。

 サービスマネジメントを考えていく上で、昨今研究が進んでいるのがサービスを工学や自然科学分野と同じような観点で捉えてアプローチする『サービス工学』や『サービスサイエンス(科学)』の考え方と手法である。

工学的な観点からサービスを扱って、主にサービスの設計・開発段階の方法論を提供しようとしているのがサービス工学だ。

 もうひとつの『サービスサイエンス』は、2000年代に米国IBMが提唱した概念で、「サービス」を科学的な視点から体系化し分析する学問分野だ。

 目に見えないサービスも、自然科学で行う、例えば植物採集の時にするような、「分類」「分解」「モデル化」といった「科学的」手法を活用していけば、サービスの本質を理解し目指すべきサービスの姿や改善すべき問題が見えてくるとするサービスサイエンスの考え方とアプローチでの研究が国内では主流になっている。

 その中心的な研究者であるワクコンサルティングの諏訪義武氏は、著書の「顧客はサービスを買っている」(ダイヤモンド社刊)の中で、サービスそのものについても、大変興味深い定義をしている。

『人や構造物が発揮する機能で、ユーザーの事前期待に適合するものを「サービス」という』。

この定義「人」とはサービススタッフやサービス組織を意味し、構造物とは製品(自動車)、設備(コインランドリー)、システム、仕組みを意味する、と注釈している。

 自動改札機やATMもユーザーの事前期待に適合する機能発揮をしているという点において、サービス主体に含まれるという考え方だ。

ITやマイコンが埋め込まれた設備やシステムが溢れる高度情報化時代のサービス定義として、理に叶ったものだ。

また、事前期待に適合しないものは、迷惑行為や無意味行為としている。

 センターのサービス品質の評価分析をしていると、均一的なマニュアルサービスの押し売りに近い余計なお世話や過剰サービスに該当するサービス提供も数多くあるのも事実であり、筆者はサービスの定義としてこれを用いている。

 サービスサイエンスは、こうした曖昧な言葉に定義を与える役割も担っている。

2本の軸を組み合わせ
サービスを4象限に分類する



 多くのセンターが、設立目的のひとつに『提供サービスを通じて顧客満足を高めること』を挙げている。

そのためにセンターをいかに運営していくべきか(=センターマネジメント)を考える際、このサービスサイエンス(科学的な)アプローチが非常に有効といえる。

何故なら、コンタクトセンターにはカスタマーサービス、ヘルプデスク、受注センターなど提供サービスには多数の種別があり、顧客の用件も実に多種多様だからだ。

 顧客満足が事前期待との比較衡量で決まる(CSの原則)のであれば、センターを提供サービスで分類し、用件や顧客ごとに異なる事前期待がどうなっているのかを分解していくことで、センター課題やマネジメント改善のポイントを導出できるはずだ。

 分類に重要なことは、『分類の軸』を探し出すことだ。

実際にやってみると面白い。手順は次の通りだ。

1.センターの提供サービスの種別を思いつくまま列挙してみる
2.列挙したセンターサービスをグループ分けする
3.グループ分けするのに、何が軸になっているのか考えてみる
4.特長的な2本の軸を組み合わせて、提供サービスを4象限に分類してみる

 対象関係の2つの分類軸で分けると、グループ分けの基準がはっきりする。

 例えば「手順型」と「気づき型」、「自分でできるサービス」と「自分でできないサービス」「ロースキル」と「ハイスキル」などだ。

 図2は、コンタクトセンターのサービスメニューを「手順型」と「気づき型」の軸と、「ロースキル」と「ハイスキル」の2軸での4象限に分類した例だ。


 分類した4象限マップを眺めていると、各象限ごとでマネジメントのポイントや必要になる管理要素が異なることが解ってくる。

例えば、手順型×ロースキルの象限のサービスであれば、手順化、マニュアル化、チェックリストの整備などがそれにあたる。

顧客視点でプロセスを分解
取り組むべき課題が見える



 次に、「分解」のセンターマネジメントへの適用を考えてみよう。

 サービスをプロセス分解すると、改善点やサービスの要素が見えてくることが多い。

プロセス分解は、以前から企業の業務改善や営業改革などで使われてきた手法なので、馴染みがあるだろう。

コールフロー設計も、プロセス分解に基づいてされているはずだ。ここで留意すべき点は、これまでのプロセス分解が「企業視点」でされていることだ。

 コンタクトセンターでは、「接続までの待ち」や回答準備のための「保留」、コールバック(折返し回答)なども発生している。

こうしたプロセスは、顧客から見れば、待たされる、手間がかかっているなどの満足度を下げるプロセスになるが、これまでのサービスプロセスには、表されてはいない。

コールフロー設計などが、提供側(企業側)の視点で描かれることが一般的であり、抜け落ちている場合が多いからだ。

 本当に価値あるサービスを開発するには顧客側の視点から描く必要があるということだ。

正確性から好印象まで
サービス品質を決める6要素



 サービス品質の評価測定要素については、SERVQUAL(ServiceとQualityを組み合わせた造語)を構成する5つの要素(信頼性、迅速性、確実性、有形性=設備や提供者の見た目、共感性)が使用されることが多い。

だが諏訪氏は著書で、サービス品質を6つの評価に分解して評価対象は成果だけではなく、提供プロセスも評価対象としている。この2つの評価対象が共に良い評価を受けると、高い顧客満足が実現されるということだ。

 つまり、高い顧客満足を得るためには、サービス成果品質とサービスプロセス品質の両方が要求され、6つの評価要素の内、正確性や迅速性は、成果品質に大きな影響を与えるサービス品質であり、好印象や安心感はプロセス品質に大きな影響を与えるサービス品質ということだ(図2)。

 例えば、「照会・単純手続」と会員制の「コンシェルジュデスク」では、言い換えれば、顧客の用件や目的、顧客の状況によっても、それぞれの事前期待は異なり、自ずと評価要素の重要度や組合せも変わってくることが、こうしたサービス品質の分解から分かってくる。

 感動を呼ぶサービスを実現するには、迅速性と柔軟性と共感性を重視すべきであり、顧客の事前期待を把握するには、共感性の発揮が何より重要になる。

分解のフレームワークをセンターマネジメントに活かすには、顧客視点でプロセスを分解することによって、これまで見落としていたプロセスから改善ヒントを得ることが肝要だ。

 「モデル化」をサービス改革に当てはめると、「サービスやビジネスの組立て=モデル」そのものを新たに創り出したり、これまでのモデルを革新させたり、気付かなかったモデルを見つけ出したりすることだ。

 サービス向上のヒントとなるモデルには多くの種類が存在するので、自社のセンターマネジメント革新を考える上で、参考となるものを探し出していくと良い。

 コンタクトセンターのサービス構成要素を表現しているモデルとしては、コンタクトセンター検定協会のCMBOK(Contact Center Management Body of Knowledge)が代表例だ(図3)。


 図4は、筆者がアドバイザーとしてかかわったエル・ティー・エスともしもしホットラインが共同開発したコンタクトセンター用のフレームワークPMCC(Positioning Model for Contact Center)の構成要素モデル図だ。


センターが全社の中で、顧客戦略立案部署として成り立つことを志向した際のステップを5段階の成熟度で測れるようにしたものだ。

センターの経営貢献については本連載後半で詳述するのでここではモデル紹介に留めておく。

 「サービスを制するものがビジネスを制する」とまで言われる今日のセンター管理者には、サービスの本質をしっかり理解した『サービスのプロ』になることが求められる。

そして、顧客視点からの『サービス分類』や『プロセス分解・成果分解』で、提供サービスの本質に迫れば、問題点を浮き彫りにできるはずだ。

 次回は、「顧客」の切り口からのマネジメントポイントについて解説する。

(コンピューターテレフォニー2013年8月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年10月10日 15時41分 更新

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