クレーム対応のレシピ 第24回

“この会社はそんなもの”と思われる
クレームのない低品質サービスの是非


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 単身で下町に住んでいる友人がいる。一人暮らしだと浴槽を洗うのが面倒で、夕食の前にお風呂屋さんに行くのが日課なのだという。昭和にタイムスリップしたようなお風呂屋さんがあちこちに健在らしい。男湯と女湯との間の番台にはおばあさんがいて、その前にはお釣りを出しやすいように100円玉・10円玉・5円玉が積まれている。ちなみにラムネは80円だそうだ。

 このお風呂屋さんに、1年前、“新兵器”が登場したという。レンタル型のミネラルウォーーターのタンクだ。風呂上りに冷たい水で喉をうるおしてほしいということか。サービス向上である。ところが、蛇口の下にはプラスチックのコップが1つ置いてあるだけ。誰が見ず知らず人と間接キスをしたいと思うだろうか。実際に、水を飲んでいる人を見たことはないと言う。なぜ、紙コップにしてくれないのか。1年経つが現状は変わらない。誰も番台のおばあさんに文句を言わないのか、というのが友人の疑問であった。

 答は「そんなものだと思っているから」だろう。イタリア旅行でも同じ体験をした。メトロで切符を買ったら釣り銭をアルミの皿に投げるように返された。小銭がジャンプしていた。散らばった小銭を1枚1枚拾い集めて財布にしまった。サービス過剰の日本から来た身としては最初ずいぶん不快な思いをした。ところが、2、3日、当地に滞在していると慣れてしまうのである。それが普通で、「そんなものだ」と思ってしまうのである。

 大都市ではクレームになるサービスが、地方ではクレームにならないという調査結果もある。その地域に住んでいる人にとって、ここのサービスは「そんなもの」と思うからであろう。
 つまり、クレームが少ない=サービスの質が高いとは限らないということだ。

 一般に、CSが向上するほど、クレームは増えるという。顧客の期待値が上がっていくためだ。サービスの質とは絶対的なものではなく、相対的であり、比較の上で判断される。いいサービスを知ってしまうとそれより劣るサービスに出会ったときにクレームが発生するのである。逆に、顧客から「ここは、そんなもの」とされていて、クレームの対象になっていない会社も数多くあるだろう。

 とすると、あなたの会社はどちらだろう?顧客が高い期待値を持つからこそクレームが起こる会社か、顧客から「そんなもの」と思われクレームがない会社か。クレームがないのは平和だが、果たしてそれでいいのだろうか。

 さて、お風呂屋さんに紙コップが現れるという、業務改善を促すクレームが起きるのはいつのことか?「その前に廃業となるだろう」と友人は言っていた。そのとき決まって出る言葉は“時代の流れ”であるが、その前にすべきことはたくさんありそうだ。


(コンピューターテレフォニー2013年3月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2018年03月15日 11時58分 更新

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