クレーム対応のレシピ 第23回

クレーマーを育てるNG対応
フツーの人が“魔女”に変わる瞬間


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 この原稿が出る頃にはもう季節外れの話題となっているだろうが、先日、「中高年のためのクリスマスパーティ」を某ライブハウスで開催した。ジャズライブにゲーム大会と、なかなかの盛り上がりだった。いつもは引っ詰め髪のおばさんたちが、今日ばかりはと赤い勝負服に身をくるむ。最近流行りの“美魔女”に変身である。

 さて、変身といえば、数年前、私自身がクレーマーに“変身”したことがあった。ある日、ポストに宅配便の不在票が放り込まれていた。平日の日中は誰もいないため、日曜日に届けてもらうしかない。不在票に書かれてあった宅配便のセンターに、恐縮気味に「申し訳ないが日曜日に届けてほしい」と伝えた。そして、日曜日。どこへも行かずにひたすら宅配便を待っていたが、いっこうに来ない。業を煮やして、再度センターに電話をかけたら「あぁ、そうなんですかぁ~」と他人事のような応対。図らずも、ここでキレてしまった。顧客を軽く見ている口調が私の癇に障ったのだ。美魔女ならぬ“魔女”に変身である。

 「ずっと待っていたのに、どういうことですか?」ときつく抗議した。このときの怒りの対象は、宅配便が来ないことに対するものだけではない。応対の言葉遣いに対するものである。日曜日に宅配便を待ち続けている顧客の気持ちというものが感じ取れない、そのことに対し怒りが爆発したのだ。だが、相手は私を“クレーマーの恐いおばさん”と思ったのだろうか、ずいぶんとびっくりしたようであった。

 クレーマーというと“恐い人”と思いがちだが、始めから恐い人は少ない。元々、そうではなかった人を応対者がクレーマーに育ててしまっているケースが多い。つまり、普通の人を恐い人に変身させてしまっているのだ。体の中にあるクレームの因子が、応対の悪さによって刺激され、クレーマーに変身すると言えばいいだろうか。このため、同じ人の、同じ内容のクレームでも会社の応対次第で静かに収まったり、あるいは逆に燃え広がったりする。

 また、一度でも「対応が悪い会社だ」との認識が顧客側に出来上がってしまうと、先入観を持って電話をかけてくることもあり、それもクレームの火種になることがある。

 そうした先入観は一個人の中に留まらない。会社の応対のいい評判というのは、少しずつ徐々に伝わっていくが、反対に悪い評判はいい評判の2倍の勢いで千里を走る。とくに、口を持つ顧客=私のようにあちらこちらで何年間もクレーム例をしゃべり続ける人になると歩く悪評宣伝器と化してしまう。したがって、クレームの初期応対というものはとても重要なのだ。

 ちなみに、この宅配便の話は、もう5年ほど研修の例で使わせてもらっている。これがホンマの「美魔女の宅急便」である。


(コンピューターテレフォニー2013年2月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時51分 更新

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