定着する組織作り『人財』最適マネジメント講座 第5回

 

「業務」「組織」「給与」の満足度を聞く
改善と向上につながるES調査のススメ


労働集約的業態をとるコールセンターにおいて、従業員満足(ES)は重要な マネジメント課題だ。だが、昨今の経済不況で定着率が高まり、ESについ て議論されるシーンは減っている。この状況は、決して長く続くものではな い。人材が定着している今こそ、CSにつながるESについて考えるべきだ。


著者:HDI-Japan(ヘルプデスク協会) 長掛文子
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 顧客満足(CS)への意識が高い一 方で、従業員満足(ES)を意識して いるセンターはどれだけ存在するだ ろうか。顧客の声を直接聞いてい るスタッフの満足なくして、顧客の 満足を得ることなどない。
 また、スタッフの離職率に頭を悩 ませるセンター管理者は、離職原因 をスタッフ個人(または派遣会社や 委託先)にあると思わず、自センタ ーの改善を急ぐべきだ。「このセン ターで働きたい」と思えるセンター にするためには、満足度調査の実 施が有効だ。
 今回はHDIサポートセンター国際 認定の項目の一つである「従業員管 理」の中から、「従業員満足(ES)」 について解説する。

ES施策はマネージャーの仕事?
オペレータ自ら実施で効果アップ


 サポートセンターのマネジメント 要素は、People 60%、Process 30%、 Technology 10%と言われる。センターの管理は人の管理と言われる ゆえんだが、その一方でESが高い センターは少ないのが現状だ。

 HDI-Japanでは、センターの地位 向上を目的に、2 0 0 6 年から「問合 せ窓口格付け調査」を 実施している。筆者は、同調査で最 高評価である3ツ星を取得したセン ターを必ず訪問しているが、共通し て言えることは、「従業員が楽しく仕 事をしている」ということだ。つまり、 ESが高いから、CSの高い応対を実 現できているといえる。

 3ツ星を取得しているセンター は、800社強の調査で1割にも満た ない。従業員が満足しているセン ターも、同様の割合だと感じる。
 毎年実施する調査で、連続して3 ツ星を獲得するセンターはさらに一 握りだ。そのなかの1社は、CSを得 るための施策をマネージャやSVが 組み立てるのではなく、オペレータ 自身が率先してワーキンググループ を作ったり、ミーティングを実施し たりしている。「やらされている」の ではなく「自らやる」ことで、スタッ フ自身のモチベーションが高まる仕 組みだ。これは、高いESが、高い CSにつながった事例だといえる。

従業員割引、工場見学―
体験で自社製品への愛着促す


従業員のモチベーションを高める には、具体的にどのような施策を打 てばいいだろうか。

 前回までに、その要素の一部とな る職務内容の定義や、キャリア開発 などについて解説してきたが、それ らに加えて「会社や取り扱う商品に 対する愛着」も重要な要素だと言え る。これは、アサーティブスキルと言 い換えることもできる。問い合わせ を受ける商品(サービス)について、 スタッフ自らが“気に入って”いれば、 それを顧客に勧めることが容易に かつ効果的にできるということだ。

 例えば、ある化粧品会社では、 スタッフに従業員割引で商品を買 えるようにしている。その結果、顧 客からの問い合わせに対する回答 や説明が具体的になり、顧客への 共感が生まれ親身な対応につなが った。マニュアルに書いてある内 容を読み上げるだけの回答や説明 とは、雲泥の差だ。

 また、ある自動車メーカーでは、オ ペレータに工場見学や試乗を行わ せている。自分の目で見て、触って、 乗ったことのある車の説明は臨場感 があり、顧客の購買意欲をそそる。

 こうしたアサーティブスキルの醸 成と併せて実施すべきなのが、セ ンターのビジョン/ミッションの浸 透だ。毎日、機械のように処理する だけの仕事は、誰にとってもおもし ろくない。自分の仕事にどんな意味 があり、会社のどんな利益貢献に 役立っているのか、そのバックグラ ウンドが見えると仕事は面白くなる ものだ。「会社を支えている」という自覚も芽生える。
 また、アウトソーシングしてい る企業の中には、委託先に運 営を任せきりにするケースも 往々にしてあるが、真のCSを 得るためには、委託元と委託先 が一丸となって、CSとともにES に目を向ける必要がある。

「満足度」と「重要度」を聞き
改善の優先順位をあぶりだす


 最後に、ESの測り方につい て解説する。
 ES調査では、次にあげる4つ の分野で調査する必要がある。

① Job・・・仕事、業務に関して
② Organization・・・オフィス、設 備に関して
③ Financial・・・給与、評価に関し て
④ General・・・全体、総合的な観 点に関して

 一般的なES調査は、「どれくらい 良いか」だけを聞き、「それがどれく らい重要か」ということ を聞いていないため、 改善策や優先順位組み 立てに活用できていな い場合が多い。
 例えば、4分野を4段 階で評価する場合、① Jobは2点、②Organization は1点、③Financial は3点という結果が出た とする。通常、この時 点での判断は、優先的 に改善を行うべきは結 果が1点の②だとなる。 だが、もしそれぞれの項目につい て、「それはどれくらい重要か(4が 重要度高、1が重要度低)」という質 問を追加して、これについては① Jobが3点、②Organizationが1点、 ③Financialが2点という結果が出た としよう(図1)。


 これにより、結論は 大きく変わる。②Organizationは決 して良くはないが、スタッフにとって は重要度も低い。逆に、①Jobは、 スタッフが重要視している項目にも 関わらず、満足度は2点と低い。改 善の優先順位は、②ではなく①から となる。

 HDI-Japanでは、ES調査につい て、第三者機関による業界比較(ベ ンチマーク)を含めた調査を推奨し ている。この手法は、ESのみ ならず、あらゆる満足度や品質を計 測する際にも役立つはずだ。ぜひ 参考にしていただきたい。

(コンピューターテレフォニー2011年2月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 11時37分 更新

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