コールセンター「進化の担い手」 QAの選び方/育て方第6回(最終回)

 

採用・育成からプロセス改善まで 鍛えた『耳』が業務最適化を促す

十分にスキルを磨いたQA(クオリティ・アシュアランス)は、モニタリングによる品質管理だけではなく、より広い分野でその実力を発揮するべきだ。最終回では、QAのさらなるキャリアパスについて考察する。モニタリングで鍛えた『耳』は、マインド醸成やスキル育成、システム管理、分析といった分野で、課題を冷静に見出し改善に導く役割にふさわしいはずだ。


著者:B-コミュニケーション 高橋珠実
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 これまで、モニタリングの専門家であるQA(クオリティ・アシュアランス)の資質について述べてきたように、QAを育成するには「顧客応対が好き」「観察眼」「コミュニケーション能力」「全体最適が考えられる思考」「あきらめない心」の5つを磨いていき、なおかつモニタリングスキルを集中して学んでいくことが重要だ。こうすることで、「聴く耳」が鍛えられる。QAの耳は、コールセンター運営するための「勘どころ」にもなる。

 QAがこれらのスキルを生かし、キャリアアップしたいという意識が向上するのは当然のことだ。筆者自身も、ビジネス社会で業務に夢中で取り組むなか、その後その意識や知識を生かし他業務や他社に貢献したいと考えたものだ。社会的帰属意識を考えると、自身の業務をある程度確立していくことができた後は、「周囲に貢献していきたい」という意識が芽生えてくるのが当然ではないかと考える。

 連載最終回となる本稿では、QAがそのスキルを生かして、さらなるキャリアアップするにはどうした道があるのかを考える。

自センターに必要なスキルは何か?
品質管理を軸に採用・研修を見直す

 モニタリングの専門家として成長していく中で鍛えた耳は、次のステップでどのように生かしていくことが出来るのか。クオリティ・マネジメントの分野で次のステップに進むには、マインド醸成、スキル育成、システム管理、分析――と、大きく4つの方向がある(図1)。

図1 マインド・スキル・システム・アナリシス


 マインド醸成やスキルアップトレーニングの分野は、QAの耳をとくに生かせる業務だ。

 スタッフの採用、研修の遂行などは、品質管理と密接にリンクする。導入基本研修では、自センターのコンセプトやミッションに沿って、コールセンター業務に関する基礎的な知識や発声の基本・言葉使い、応対スクリプトについて学ぶ。さらに、ロールプレイング研修や商品に関する知識研修、マインドアップ研修を行うことで、そのセンターにマッチした人材を形成していく。

 一般的に、インバウンド業務では、予測ができない場面でその「臨機応変な対応」をどのように教育し定着できるかが要となる。一方、アウトバウンド業務では、顧客が聞きたくなるような会話の展開方法、必要な事項を漏れなく伝えるスキルの浸透などを習得することが重要で、これは現場に近いSV(スーパーバイザー)よりもQAの方が全体最適の視点でより課題の優先順位を決定しながら進めることができるはずだ。

 センター内スタッフの育成に向けた職務要件書の作成も、QAが担うべき大切な役割だ。ISO導入などをきっかけに職務要件書を作成、運用しているセンターもあるとは思うが、センター長やQA、トレーナー、SV、オペレータとそれぞれ役職があるものの各業務の役割範囲が明確になっていないセンターは多い。組織が目標達成に向け一丸となるためには、各スタッフがそれぞれの役割を詳細かつ具体的に把握することが重要だ。

 人材不足だからといって、兼任職で対応することは望ましくない。業務を知らない、または管理・運営ノウハウがない人材に役職をつけても強靭な組織作りとは程遠くなる。こうしたケースでは、センター全体の業務を冷静に判断できるモニタリングスキル(=聴く耳)を鍛えたQAが強力なサポーターになる。現場育成が進展しないSVなどには、QAがモニタリングのカリブレーションを通して指導力のスキルアップを促すことができるはずだ。

 また、センター運営者には、知識やスキルばかりではなく、メンタルヘルスの教育にも興味を持ってもらいたい。モニタリングの中で、マインド面、スキル面でのばらつきが目立つ場合には、メンタルフォローを入れるなどの工夫が有効だ。このためSVやトレーナーといった指導者は、カウンセリングスキルなどの専門知識を有していくべきだ。

VOC活用の仕組みを整える
製造・営業部門の改革を促進

 指標管理やCS向上施策、プロセス改善にもつながるシステム管理にも、QAのスキルは役立つ。

 モニタリングで培った意識や仕組みの考え方は、運用改善に非常に生きる。例えば、品質管理担当者として応対品質の向上をはじめ、センター運営をより良くするための「企画(P)」「現場支援(D)」「管理(C)」に関わり、現場の中でPDCAサイクルを回す役割を果たすことができる。「品質管理マネジメント」をシステムの運用や改善に取り組んでいくことができるはずだ。

 また、分析(アナリシス)業務においても、モニタリングのスキルが活用できる。モニタリングした内容を集約し課題を抽出していく中で「顧客の声(VOC)」を分析・活用してくことは、コストセンターとして取り上げられるコールセンターの「経営貢献」の見せ場でもある。

 日常のスキルチェックとしての「モニタリング」や苦情対応などのモニタリングは「センター運営で問題を発生させない」または「何かが苦情として発生してから」の対応だ。しかし、定期的に傾向を分析していくことで、「商品への希望」「品質管理上の課題の抽出」「営業の課題」といったVOCを把握し、製造部門や営業部門へフィードバックする仕組みを構築することは、会社への大きな貢献につながっていく。

 コールセンターやお客様相談室といった顧客のもっとも身近にいる部門が、自信を持って企業の発展のために役立っていくべきだ。このやりがいはスタッフのモチベーションをより高める。この充実したマインドは、さらに応対品質を磨くという良いサイクルが出来上がるはずだ。地道で縁の下の力持ち的な存在であるQAの育成は、今後のセンターの品質向上には欠かせない要になっていくことだろう。

図2 QAのスキルをセンター運営に生かす


(コンピューターテレフォニー2009年3月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 11時52分 更新

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