コールセンター「進化の担い手」 QAの選び方/育て方第4回

 

聴き取りからフィードバックまで
モニタリング技法を体得する12のステップ


今回は、約3カ月間で完了するQA育成プログラムの例を紹介する。電話応対の基礎知識からコーチングの手法まで、12項目にのぼるモニタリングスキル習得ステップを解説している。ポイントは、評価するだけではなく効果あるフィードバックを実践できるよう、耳を鍛えるだけではなく聴きとった結果を言葉で表し改善に促すスキルを身につける点だ。


著者:B-コミュニケーション 高橋珠実
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 図にあるように、一般的なQA育成の手順は、①電話応対の基礎知識、②センターの取り組み指標(品質と生産性のバランス)、③心と言葉の表現力、④オープニング、⑤話す力、⑥聴く力、⑦印象貢献度と目的達成度のバランス、⑧業務遂行能力、⑨顧客の心理・応対者の心理、⑩クロージング、⑪話し言葉と書き言葉の違い、⑫コーチングの手法――となる。

図 QA育成プログラムの例


 ①の電話応対の基礎知識とは、応対の心構え、電話知識、姿勢、発声、発音などの基礎訓練を学び、本来業務において大切なことを知るためのものだ。基本知識を身につけることで、改善を促す際にどこから手をつけるべきかを決定しやすくなる。

 ②のセンターの取り組み指標(品質と生産性のバランス)では、各指標が何を表しているかを知ること、またその指標からモニタリングのテーマを見出すことを学ぶ。指標管理で気をつけなくてはならないのが、数値化することと、数値にこだわりすぎて満点を取ることに終始しないようにすることだ。また、モニタリングを実施することにこだわりすぎて、目的が応対を良くしていくためなのか、できていないことを指摘することなのか、その手法によって、現場の課題を見失わないようにすることも大切だ。他の数値や指標を組み合わせて、応答率と時間内応答率(何秒以内に応答しているか)の差とオペレータの稼働時間と応答時間の差を組み合わせて、オペレータのレベルごと、時間ごとの基本応対時間を算出し、ACDやグルーピングの参考にしたり組み合わせることで、変化に対応するための分析する知識を養っていくことも大切だ。

 ③の心と言葉の表現力は、「相手に対する思いやり(ホスピタリティ)」をどのように表現するのか、考えたことをどのような言葉に変換して相手の心に届けるのかを学ぶ。コミュニケーションを考えていくための下地となるため、ここではディスカッションが有効だ。顧客応対だけではなく日常の中のあらゆる人間関係の基本的な考え方を身につけるためにも、「どうあるべきか」を率先して考え実践できるように指導する。

 ④のオープニングについては、第一声や挨拶などが印象面に与える重要ポイントを知る。

 ⑤の話す力については、滑舌、言葉遣い、テンポ、抑揚などの技術的な知識と実践に関する「話すスキル」、会話の構成、説明のわかりやすさ、ペーシングなどの手法である「話し方」――の2つについて学ぶ。

 ⑥の聴く力は、復唱や相槌、質問話法などの技術的な知識や実践である「「聴くスキル」、共感の言葉、状況の把握や理解度の確認などの積極的傾聴の手法としての「聴き方」――の2つを習得する。

 ⑦の印象貢献度と目的達成度のバランスでは、“感じの良さ”を構成する「間」の使い方と、“正確な回答”から満足度を向上させることを学習する。  ⑧の業務遂行能力とは、業務知識を生かした臨機応変な応用力だ。

 ⑨の顧客の心理・応対者の心理とは、ケースごとに顧客が待つのか、待たないのか?(話し中か呼びっぱなしか?)を判断し、顧客目線と同時に応対者の目線を意識することで、感情や知識のズレを知る。

 ⑩のクロージングでは、最後の挨拶は余韻を大切に、企業PRできているか?を意識する。

 ⑪の話し言葉と書き言葉の違いでは、モニタリングで受け止めたことを伝えるための話し言葉と書き言葉の表現の違いを学ぶ。

 実際の育成にはもちろん⑫のコーチングスキルも学ぶ必要がある。コーチングの手法では、優先順位を判断し、目標を設定する。課題ごとに本人が取り組みやすい指導方法を学ぶ。これは、やはり個別にスキルとして学ぶことと、実技として実践を通しながら学ぶ方法がある。指導を書き起こせるからといって、指導ができるかというと、簡単にはいかないため、先輩スタッフと行動をともにするなどして、実践力を身につけることが大切だ。

効果あるフィードバックのため
「書く」スキルも育てる

 モニタリングスキルを育てる過程は、大きく二つのフェーズに分けられる。  一つめは電話での実際の会話を聴き取れるようになること。「聴く」というのは言葉だけではなく、声に表れる表情も含める。相づちなどの『間』も感じ取るには、とにかく多くの種類の音声を聴くことが重要だ。これらはリアルモニタリングでは聞き逃し易いため、最初はロガーモニタリングで練習すると良い。

 二つめは、聴き取った事実を書き起こす練習だ。「話し言葉」を「書き言葉」で指導できるようにするために、言葉を書きおこしていく。ポイントは、「事実」と「感情」を分けて書いていくことだ。「感じが悪い」のような感覚的な指摘をするだけではなく、「言葉の1つひとつを区切って話しているために○○の説明がわかりにくい」「結果として説明を終了しているが、顧客は“はあ”などと腑に落ちないような返事の仕方になっている」などと具体的に書いていく力も大切だ。気をつけたいのは、“思い込み”だ。「自分だったらこうする」と決めつけてしまうとオペレータへの押し付けになったり、顧客目線ではなく会社目線になってしまい冷静に分析や指導ができなくなる場合があるからだ。

モニタリング力こそセンターの力
QAは時間をかけて育成するべき

 以上のように、知識面と実技面を両側面から学ぶことが大切だ。とくに「耳」を育てるためには、基本知識と実践を学ぶため、ある程度の時間も必要であり、その時間を惜しんでしまうと、中途半端な教育となる。またその時間さえ惜しむメンバーであれば、今後それ以上の忍耐を強いるQAの業務には耐えられないであろう。教育するプログラムや時間を作って、着実にスタッフを育成していくことは、本人だけではなく、センター運営全体に大きく影響する。

 もちろん、社外からの採用であれば、ここにベースとなる社内教育も必要だ。商品知識や業務を遂行する上での知識ももちろん必須となる。社内からの起用であっても、センター運営の知識を学ぶ時間も大切だ。

 今回あげたカリキュラム内容は、QAといっても「モニタリング」をする上での「基本ベースとなるべき職能要件」プログラムであり、運営に備えれば備えるほど、必要な知識はまだまだ多くなる。

(コンピューターテレフォニー2009年1月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 11時58分 更新

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