カスタマー・エクスペリエンスの基礎~今、必要とされる顧客体験第4回(最終回)

 

愛着心/帰属意識/仲間とのつながり
「サービスマインド」育成の3大要素


サービスは人が作る。カスタマー・エクスペリエンスの実現は、それを実践する人財の育成が不可欠だ。単にマナーや言葉遣いを身に付けるだけではなく、サービスの重要性と本質を理解している必要がある。従来型の知識詰め込みに偏重した教育ではなく、商品・サービスに対する愛着心や帰属意識、仲間意識が根付く風土作りこそが重要となる。

著者:ラーニングイット 河合晴代
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 最終回は、「カスタマー・エクスペリエンス」を実践するために、どのようなコールセンターづくりが必要か、という話で締めくくりたい。

 コールセンターを顧客戦略の要としている企業では、「顧客満足度の追求」が至上の命題となっている。しかしながら、すべてのコールセンターがザッポス(顧客満足で有名な米通販会社)のようになれる訳でもなく、またなる必要もない。

 まずは、自社が提供すべきカスタマーサービスの品質を明確に定義することが肝要だ。それがセンター運営方法を決定する際の、すべての指針、あるいは判断に迷ったときに立ち戻る場所となるものだからだ。

 定義するだけでなく、それを実践できるように環境整備も合わせて行うべきだ。例えば、「顧客からいただいた最初のコンタクトで、顧客にとって最も便利な方法で、迅速に、質問への回答や問題解決を提供する」と定めたならば、それを現場が実践できるようなプロセス・テクノロジー・組織(開発)を導入すべきだ。

 次に、人財の育成だ。ここでは、人材育成において最も難しい課題である「マインドの醸成」について解説したい。カスタマーサービスの人財を育成するには、やはり「サービスマインド」は必要不可欠でありポイントは、①商品やサービスへの愛着、②会社への帰属意識、③働く仲間とのつながり――の3つあると考えている(図1)。以下では、この3つの要素について具体的な育成法を紹介する。

図1 カスタマー・エクスペリエンス実践の手順


1.商品やサービスへの愛着

 コールセンターへ電話をかける人の多くは、既存顧客か見込み客である。このことから、まずはオペレータ自身が、「自社の商品やサービスが素晴らしい!」と感じることが何よりも大切だ。自分が良いと信じているものであれば、顧客への説明にも自然と熱が入る。また、新しい業務知識の習得にも熱心になる、という副産物もついてくる。「知りたいから学ぶ」と「仕事上、仕方なく学ぶ」では理解の上でも大きな差が出るのは言うまでもない。よって、「初期研修での自社商品やサービスの説明」が非常に重要だ。営業マン向けの「セールス研修」を参考に研修を実施すると良い。もしここで、ファンになってもらうチャンスを逃すと、後々苦労することになるのだ。

2.会社への帰属意識

オペレータを自社雇用しているインハウスセンターはもちろん、派遣オペレータでも派遣元ではなく自社への帰属意識を植え付けることは大切だ。なぜなら、顧客と接する仕事を任せている限り「会社の代表」であることには変わりないからだ。

 派遣会社は、条件にあった人を紹介してくれるだけだといっても過言ではない。派遣社員を活用している企業は、業務指示だけではなく、育成の責任もあると思うべきだ。

 また、雇用属性にかかわらず、「この会社で働きたい!」という気持ちを持ってもらえるよう、マネジメントに工夫を凝らすのも一手だ。例えば「この会社で働くとスキルが身に付く」というようなことでも十分である。

3.働く仲間とのつながり

 コミュニケータという仕事は意外と孤独だといわれる。次から次と顧客と話をする一方で、業務が終わるまで社内の他の人と業務上必要なこと以外、一切話すことなく一日が終わることも少なくない。

 人は一人ではさびしいし、まず楽しくあるハズがない。働く仲間とのつながりがあれば、自然と職場の雰囲気が明るくなり、それが応対品質にも良い影響を与えるのだ。労働集約的産業であるため、勤怠ルールは厳しくならざるを得ないが、まずは「来たくなる職場か否か」を今一度、考えてみる必要もあるだろう。

臨機応変は当事者意識から生まれる
「意識」を育てる風土作りがカギ

 目指す人財像は、『当事者意識=オーナーシップのある人』だ。つまり、仕事を「他人事」ではなく「自分事」として捉えることのできる人のことだ。

図2 人財育成の3つのポイント


 例えば、オペレータが教えられたとおり(スクリプト通り)に言っただけなのに、顧客が怒ってしまった…、という経験はないだろうか。そこの部分だけ切り取ってみれば、オペレータはもちろん正しいのだが、その時の顧客の状況/気持ちを考慮し、スクリプトを多少変更してでも柔軟な応対をすべき場合も勿論ある。こんなことは、社会人として常識の範囲かと思うが近年はその理論は通らないようだ。とはいえ、すべてのケースごとにスクリプトを作ることも不可能だ。顧客の状況/気持ちを「他人事」ではなく、「自分事」として捉えて、臨機応変なコミュニケーションができるようオペレータを育成するしかない。

 そのようなオペレータを育成するには、それができるSVが必要であり、そうしたSVが育つような「しくみ・風土づくり」が不可欠だともいえる。

 カスタマー・エクスペリエンスの実践に人財育成や風土作りから着手するのは一見遠回りのように見えるかもしれない。だが、サービスは人が作り出すものだ。自社独自の「カスタマー・エクスペリエンス」を実現するには、それを支えるオペレータとSVの育成がなによりも重要なのだ。

(コンピューターテレフォニー2011年11月号掲載)

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