SVのためのオペレータ指導要綱第5回



研修で身につかないホスピタリティ
SVの言動・所作が最大の手本


CS向上を追求すると、おもてなしの心(ホスピタリティ)に行き着く。研修やルールなど“テクニック”によって表現しがちになるが、これでは本質を伴うおもてなしを実現できない。オペレータの感性を磨き「心のアンテナ」を高くすることが不可欠だ。オペレータはSVの行動を真似る。日ごろのSVの言動・所作こそが、ホスピタリティを学ぶ最大の手本となる。

著者:市場通信 石橋由佳
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 ホスピタリティはルールやテクニックで“表現”することはできますが、本質が伴わないおもてなしは顧客にもそのことが伝わってしまいます。心のこもったおもてなしを行うためには、オペレータの気づきと、それをさっと自然に行動に移せる所作が不可欠です。

 SVの日頃の笑顔や話し方などが、オペレータに大きな影響を及ぼすことは前号で説明しました。実は、オペレータはこうした直接自分に向けられた行為だけでなく、SVの行動をよく見ていて自然と影響を受けているものです。

 今回は、ホスピタリティとSVの行動の因果関係について考えてみたいと思います。

■SVが走るとオペレータも走る

 コールセンターの現場は、日々大変忙しいものです。特に、SVの場合、オペレータからはエスカレーションや対応の相談を受け、マネージメントからは評価やシフトの指示を受ける、といった状況で常にせわしいことでしょう。

 時折見受けられるのが、センター内を右へ左へと走り回っているSVの姿です。こうしたセンターでは、オペレータも同じような行動を取っていることが少なくありません。もちろん、迅速な対応は重要ですが、そのせわしなさがコールに影響していることまでは意識されていないのではないでしょうか。

 顧客の電話の目的や質問はいくつかのパターンに集約されることが多いですが、せわしないセンターのオペレータは「あっ、○○の件だな」と勝手に判断して、会話を展開させるケースが多いように感じます。また、顧客が直接口にしなくても電話口から伝えようとする小さな信号(メッセージ)をしっかりキャッチすることも大切なのですが、それを大事にする気持ちが育ちづらくなるようです。何より、オペレータがせわしない気持ちでいると、顧客の話を最後までしっかり聞くことができず、顧客満足を損なってしまうことがあるかも知れません(図1)。

図1 SVが走ればオペレータも走る


■習慣は内側からにじみ出る


 一方で、日々のふるまいからセンターのポリシーを体現しようと努力しているケースもあります。ホスピタリティをとても大切にしている某コールセンターの事例を紹介します。

 このセンターでは、SVが率先して日頃からホスピタリティを体現するようにしています。具体的には、手洗いで洗面台の水しぶきをそっとふいて立ち去る、あるいは会議室を通った時には一人でイスとテーブルを研修用の配置を換えているスタッフをみかけたら、面識のない担当者でも声をかけて手伝うなど、といった行動です。  どちらも非常に自然でさりげない行動ですが、根底に流れる姿勢を感じることができます。そのため自然とオペレータも同様の行動を取り、ホスピタリティの精神を取り入れることができ、たとえばドアの開け閉めひとつも静かに行うようなあたかたい気遣いのある行動が取れるようになります。顧客との電話の会話においても、自然とそうした姿勢は伝わるようになるのです。

 残念ながら、ホスピタリティというのは研修やルールで教えられ、身に付くものではありません。「この場合はこう案内する」というような応対上のルールだけで、内側からにじみ出るものはありませんし、想定外のケースに対応することは難しくなります。内側からにじみ出るホスピタリティとルールで教えられたそれでは、顧客にも自ずと違いが感じられることでしょう(図2)。

図2 ホスピタリティはルール化できない


■心のアンテナを立てる

 行動で示すためには、まず「気づき」が必要なのですが、そのために、まずSVの方に心がけていただきたいのが、「心のアンテナを立てる」ということです。具体的には、まず会話の中でしっかりと相手の話を聞くことです。たとえば、オペレータからの相談を途中まで聞いて「ああ、あれね」と早合点せずに必ず最後まで聞くことから始めてみてください。もしかしたら思っていたのとは違う話かも知れませんし、何よりも最後まで聞くことでオペレータの安心感や満足を得ることができます。こうした態度が顧客のお話をじっくりと聞き、対応することにつながるのではないでしょうか。

 また、人は心の中にあることを必ずしもすべて口に出して話をするわけではありません。言葉に表れるのは思っていることのほんの一部であって、相手の言葉を真に理解するためには、相手の想いに関心を寄せ、時には質問や会話によって明らかにする必要があります。そのためには言葉はもちろん、しぐさや表情などの情報も総動員して、相手の気持ちを推測してみてはどうでしょうか。何か気になることがあったら、「詳しく聞かせてくれる?」「○○のことが心配なのね?」など、掘り下げてみましょう。理解がすすみ、具体的なアドバイスにつながりやすくなります。

 最後に、心のアンテナが何かを察知し、気づいた時にはさっと声をかけ、行動に移す、というのは意外に難しいものです。気づいていてもタイミングを逃して電車の中でお年寄りに席を譲ることができない、というのは誰しも経験があるのではないでしょうか。センターでも、気づいた時に瞬時に行動に移せることが大切です。声をかけるときにはぜひ「そのお洋服、素敵ね」だけではなく、「そのお洋服、お花の華やかさと水色がお顔に合って素敵ね」などと具体的に話すこともポイントです。

 そのような日常のSVの行動がオペレータに知らず知らずに影響を与え、コールにもでてくるのです。

(コンピューターテレフォニー2012年4月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 13時47分 更新

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