コンタクトセンターで使える!ソーシャルメディア活用の手引き 第6回(最終回)




活用していなくてもリスクはある!
ルール・教育の徹底で炎上を防止


炎上のリスクは、窓口の有無に関わらない。事件や不祥事でソーシャルメディアの俎上に載ることもあれば、従業員の投稿が炎上するケースもある。従業員による炎上を防ぐには、ガイドラインの策定と浸透が有効だ。また万が一、炎上した場合に備えて、ソーシャルメディア上で反論あるいは弁解できるよう、公式アカウントを開設しておくことも望ましい。

著者:オフィスバトン うねだ友希
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 ソーシャルメディアを活用していない企業にその理由を聞くと、必ずといっていいほどROI算出と並んで「炎上が怖いから」という答えが含まれている。それだけ炎上という言葉も世間で浸透し、その怖さや大変さも知られているのだろう。顧客サービスに携わっている人であれば収集のつかないクレーム対応を即座に思い浮かべるのではないだろうか。

 インターネットによる拡散の恐ろしさは1999年の東芝クレーム事件をきっかけに広まったが、当時はもちろんソーシャルメディアの存在はなかった。それだけに現代はもっと拡散も早く被害も大きくなるのでは、と懸念している人は少なくない。

 確かに、ソーシャルメディアの普及によって、リアルタイムで情報は拡散されるようになった。しかしそれは、対象の企業が例えソーシャルメディアを運用していようがしていなかろうが関係ないのである。窓口を開設していなくても情報はネット上で語られ、風評被害は口コミでいくらでも広がる。むしろ、問題が起きたときに謝罪や弁明のルートを確立する意味でも、ソーシャルメディアの窓口を開設する方が有利だとさえいえる。また、煽る人がいる一方で、仲裁者も出てくる。但し、かばってもらえるのは、企業側が間違った対応をしていなければ、の話だ。逃げずに、「真摯に対応しよう」という誠意が前提になる。

■なぜ炎上が起きるのか?

 本人は悪気なく投稿したつもりでも、常識から外れていたり他人や他社を誹謗中傷するような内容ととれる場合、炎上のリスクは高まる。  有名な例では、有名人や芸能人が来店したことをツイートしてしまう従業員のケースだ。本人は、情報週刊誌の記者さながら“いい情報を提供した気分”になっているのかも知れないが、これは明らかにマナー違反だ。

 このケースは、「本人の社会人としての意識が薄い」と片づけられがちだが、その従業員を雇用している企業側にも問題がある。「芸能人が来ても他言しないこと」などの明確なルールや教育の徹底で、こうした炎上は防げるものだ。常識として通念されることであっても、世代が違えば世界も違う。「言わなくてもわかること」が必ず通用する訳ではない、ということだ。

 日本新薬の飲み会でハルシオンを上司に飲ませたツイートの事例を考えると、例えB to Bの商売であっても安心はできないだろう。睡眠導入剤の薬だが、過去に死亡事件との関与を疑われた注意が必要な薬品だ。提携先の薬局から大量購入し、飲み会の席で上司のお酒に入れて悪戯をしたという告白ツイートをして話題となった。ツイートしたのは女性の医薬情報担当者。プロフィールに実名を入れていたことでFacebook上で勤務先が特定され、炎上した。

 この女性社員の例とは異なるが、Twitterで非公開モード(鍵付き)にしているからと安心しているのもまだ早い。ツイートそのものは公開されないにせよ、写真の投稿方法によっては誰でも閲覧できるようになっている。

 また、Twitter上の人間関係が悪化した場合に備えることも必要だ。実名は出さずニックネームで投稿していたとしても、あっという間に個人特定もされてしまう。勤務先などの情報を公開していなくとも、リストの名前や位置情報、交友関係、写真投稿のカメラ機種などさまざまな事柄からFacebookなどとリンクさせて、実名を特定することは可能だ。

 もちろん、社員の失言や失態だけでなく、企業側に落ち度があるケースも多い。情報漏えいなどの不祥事、他社によるなりすまし、問題が起きた時の謝罪の仕方などさまざまな場面で炎上を引き起こしやすい要素はある。

■事前のリスク管理で備え

 「ソーシャルメディア白書2012」(トライバルメディアハウス/クロス・マーケティング)によると、一般社員向けガイドラインを策定していると回答した企業は25%あった。物足りない数値ではあるが、まずまずといったところだと感じるかもしれない。

 ガイドラインは策定することでなく、「浸透させること」に意味があることを忘れてはいけない。

 ザッポスの社員が日常生活においても10バリューを意識し、「ザッポニアン」でいることの素晴らしさを書籍の中で語っていたが、ガイドラインに於いてはスリーエムがいち早く同じ考えで導入している。従業員や関係者を対象とし、「私たちは24時間3Mer(スリーエム社の一員)であるという自覚が求められます」と個人向けのガイドラインを策定している。同社のガイドラインはシンプルでわかりやすく、ホームページ上で公開されているため多くの企業の参考とされている。ガイドライン策定のほか、万一に備えて炎上のワークフローもぜひご用意いただきたい。コンタクトセンターのクレームフローと同様に、どの段階まで担当者がやりとりを行うのか、上司対応のタイミング、社としての謝罪についての判断をどの段階で行うのかなどタイムラインを設けて迅速に動けるよう準備が必要だ。ソーシャルメディアも備えあれば憂いなし。炎上を恐れるよりも顧客との対話から得られるリアルタイムの繋がりをぜひ愉しんで運用していただきたい。一歩踏み出し、ソーシャルメディアを活用し飛躍する企業が増え続けることを期待して止まない。

図 スリーエムのガイドライン


(コンピューターテレフォニー2012年11月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 14時15分 更新

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