クレーム対応のレシピ 第19回

「漂えど沈まず」――
脱マニュアルでも不躾でない話し方


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 都市伝説というか、某ハンバーガーショップでの伝説の会話がある。たった一人で来店した客が、「すいません。ハンバーガー20個ください」と注文。これに対し、店員は「お持ち帰りでしょうか?お召し上がりでしょうか?」。硬直したマニュアルトークを、からかったエピソードだ。

 一方で、マニュアルの存在しない市井の店舗ではこんな話がある。メタボ体型が進んだ知人が、近所のクリーニング店にズボンのウエストを広げてもらうように頼みにいったという。店主いわく、「お客さん、5センチくらいは広げられますけど、ウエストを広げようとするよりサイズに合うようにお腹をへこませた方がいいのと違いますか」。――正論である。ぐうの音も出ない。だが、「クリーニング店の店主に言われる筋合いはない」と知人は立腹していた。店主としては、顧客の健康にも配慮し、また、ズボンの型崩れを防ぐことも考え、最上の提案をしたつもりであろう。だが、店と顧客という関係上、下手な馴れ馴れしさはクレームを生むということを忘れてはいけない。

 コールセンターにおいても、とくにマニュアルが通用しにくいクレーム対応では、似たようなことがよく起こる。

 対応マニュアルや会社のルールを逸脱するわけにはいけないと思いつつ、顧客の語気に押されてつい、「ごめんなさい!」「ど~も、スイマセン」「ちょっと待ってね」など、慌ててポロっと出るタメ口が二次クレームの元になったりもする。かといって、マニュアル通りの硬直した応対もまた、クレームに拍車をかけてしまいかねない。

 「漂えど沈まず」という言葉があるが、コールセンターにあてはめると、さしづめ「マニュアルを守り、マニュアルにとらわれず」と言えばいいだろうか。

 ルールやマニュアルを徹底しているといっても、機械が応対しているわけではない。応用が利いてこその、人間の応対なのだ。つまり、機転のきく対応や、TPOへの配慮こそが、オペレータに求められているものだといえる。それには、日頃から会社の品位や品格を守ろうする意識付けが必要となる。そうした意識の積み重ねが、会社の文化を培うのだろう。

 ちょっとした言葉が応対の歯車を狂わせることは多い。顧客に対する温かく、かつ不躾でないという絶妙の接し方、話し方を心がけたいものである。

 さて、ある外資系会社のセンターの話である。顧客から「女じゃ話にならん!責任者の上司を出せ!」ときついクレームがあった。そこで、女性のオペレータがこう返答した。「最高責任者に代わることはできますが、英語しか通じません。それでもよろしいでしょうか?」。顧客は「お前でいい」――漂ったのだろうか、沈んだのだろうか?機転だろうか、居直りだろうか?クレーム応対の都市伝説である。


(コンピューターテレフォニー2012年10月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時48分 更新

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