クレーム対応のレシピ 第17回

「二度とないように」は“武士の情け”
お目こぼしのサインを読み取る!


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 民放が時代劇を作らなくなった。年配層しか見ない、お金がかかるなどの諸事情があるらしい。近年まったくテレビから消えてしまったリアリズム、ハードタッチものを除いて、勧善懲悪のチャンバラは、お約束ごとの連続で成り立っている。

 その一つに、“顔で笑って心で泣いて”あるいは、その逆の“言葉は厳しいが心の中は温かい”という主人公の造型がある。例えば、鬼平は「きつく申し渡す」と言いながらも“急ぎ働き”をしない善良(?)な盗っ人をお目こぼしする。言葉と行動が裏腹になるのだ。そういう“粋なはからい”“腹芸”“惻隠の情”は日本のドラマツルギーのひとつだ。視聴者は、表向き「怒っている言葉」が、実は「気遣っている言葉」になっていることを読み取りながら見る。国語の問題でよくある「――線部①からわかる主人公の気持ちとして適切なものを次から選びなさい」というものに近い。

 とあるアウトソーシング型のコールセンターの話であるが、あるオペレータが顧客から応対に対するクレームを受けた。それほど悪い応対をしたわけではなかったので、謝罪して「これにて一件落着」――と思いきや、顧客側はそのやりとりの中でどうしてもまだ納得がいかなかったようだ。今度は、センターではなく、クライアントに直接電話をして再度クレームを伝えた。クライアントは大変怒り、アウトソーサーは謝罪に行った。平謝りの後、クライアント側が「二度とこのようなことがないようにお願いしたい」と言ったのに対し、なんとセンター側の担当者は「“二度と”と言われましても、このくらいのことは今後も起こりうる可能性があります」と正直(?)に答えてしまった。う~ん、この空気の読めなさ、かなり「ワイルドだぜぇ~」である。

 クライアントとの契約は半年単位。クライアント側は、今回の件で契約が打ち切られないよう助け舟を出してくれたのだ。「二度とないように」というのは「今後もおたくとの契約を続ける意志がある」ということの表明といっていい。振り上げたこぶしの落とし所を作ってくれた、言わば“武士の情け”なのだ。「申し訳ございません。二度とないようにいたします」と答えるのがマイルドだろう。

 確かにクレーム対応では「問答無用!」ということもある。だが、顧客もクライアントもどこかに落とし所、お目こぼしを用意してくれることは少なくない。言葉の奥にあるサインをきっちり受け止める読解力と感性が必要なのだが、どうも“腹芸”“阿吽の呼吸”についていけない応対者が多い。

 珍説を覚悟で言うと、これは時代劇が茶の間から消えたことと無関係ではないのではないか。それならば、オペレータ研修で「水戸黄門」と「暴れん坊将軍」と「鬼平犯科帳」「忠臣蔵」のDVDを見続けるというのはどうだろうか。まぁ、本当にやったら、これも「ワイルドだぜぇ~」ではあるが。


(コンピューターテレフォニー2012年8月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時48分 更新

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