クレーム対応のレシピ 第15回

発する言葉は氷山の一角
潜む「真意」に耳を澄まそう


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 今年は、タイタニック号が氷山にぶつかって沈没してから、ちょうど100年だそうだ。氷山というのは、「氷山の一角」という言葉の通り、海面に浮かんでいるのは一部で、ほとんどは海の中に沈んでいる。このため、浮かんでいる部分を避けたとしても、その下に船がぶつかってしまうことがある。

 一つのクレームは実は氷山の一角であるという話は、また別の機会に述べることにするが、人の発する言葉も氷山のように「発した言葉」の下に、「その言葉の真の意味」が隠れていることが多い。そのときの言い方や場面、文脈で決まる「言外の意味」というものである。それを理解しないことを「言葉を文字通りに受け取る」と言う。

 さて、次の対話は、筆者が聞いたあるクレーム電話の音源の初期会話だ。

顧客「送ってもらった掃除機の付属部品はいくつあるの?」
オペレータ「はい。3つでございます。AとBとCでございまして……」
顧客「そんなこと聞いてるんじゃない!!」

 「文字通り受け取る」と、オペレータの対応には何も問題はない。質問に答えただけだ。ところが、音源を聴くと顧客の「いくつあるの?」の言い方にややトゲが感じられる。つまりは「いくつあるの?」の真意は「付属品が足らない」ということのクレームだったのだ。だとすると、驚きながら「何か欠けていたものがございましたでしょうか?」というような言葉と声の表情で答えるべきだったのだ。

 日本人はストレートな主張をともすれば避け、遠回しな言い方で察してもらおうとするコミュニケーション文化があるとされる。受け止める方もまた繊細な感性で、相手の真意を察知するのが日本的なのだ。行間・ニュアンスを読むことに長け「文字通りの会話」を野暮とする――この感性が日本のサービスのきめ細かさを支えていることは間違いない。

 ところが、この「感じる」「思いやる」という感性が減退しているような応対が目立つ。残念ながら感性を身に付けるマニュアルや特効薬はなく、意識改革こそがソリューションとしか言えない。

 オペレータには、「話す」マニュアルよりも「聞く・聴く・感じ取る」力が本来先に必要だ。にもかかわらず、世には「話し方教室」はあっても「聞き方教室」は聞いたことがないし、「話術」「話力」という言葉はあっても「聞術」「聞力」はない(聴力だと別の意味になる)。どうも「聴く」ことに不熱心だと感じる。

 顧客の声の調子や言葉の後ろにある真意を繊細に聴き取る――これこそが、クレーム応対での聴き方の第一歩だ。ここをおろそかにすると、タイタニックのような堅牢・豪華なセンターであってもクレームという氷山にぶつかって沈没、ということになりかねないだろう。


(コンピューターテレフォニー2012年6月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時47分 更新

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