クレーム対応のレシピ 第10回

教育は“時間つぶし”に行うものではない!
労働時間の5%をトレーニングに充てよ


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 むかしあるところで、与作がヘイヘイホーと木を切っていた。1日10本の木を切るのが与作のノルマだ。斧の刃先が丸まって能率が悪いことを見かねた、通りがかりの旅人が、「刃先を研げばもっと速く切れるじゃないか」と言うと、与作は「ノルマがきつくて、その暇がない」と答えた。  さて、オペレータにとって「刃先を研ぐ」とは、応対のスキルを身につけることだ。そして、それはもちろんトレーニングや教育によって実現されるものである。  オペレータの業務は多様で膨大、クレームもひとつひとつ無秩序に押し寄せてくる。「暇がないから勉強ができない」と与作のようにぼやいているうちは、仕事の質はまったく向上しないだろう。勉強は業務が暇な時に行うものではなく、日常の業務に組み込まれるべきものである。与作は刃先を研ぐ時間を自分の業務の中に組み込んでいなかったのだ。

 昨今は、「物クレーム」から「人クレーム」の時代になったとよく言われる。商品そのものに対するクレーム(物クレーム)より、従業員の応対・サービスに対するクレーム(人クレーム)が圧倒的に増えてきているということだ。

 この背景には、『CS経営』を標榜する企業が増えたことも一因にある。皮肉なことに、企業がCSに対して努力をすればするほど、顧客の期待値がどんどん上がり、クレームも増加するのだ。今までならクレームにならなかったレベルのこともクレームとなる。アンケートやコールセンターなどの「顧客の声」を反映する場も増えたため、クレームが目立つようになってしまったとも考えられる。

 こうしたなか、私たちが陥りがちなのは「悪者探し」に終始してしまうことである。「わけのわからないお客さんが増えた」「会社の体制が悪い」――と嘆くコールセンター従事者は少なくない。

 しかし、悪者を作ってばかりいても何も変わりはしない。大切なのは、オペレータ自身が成長することだ。

 顧客の要求が高くなる/多くなると顧客に振り回される応対になりがちであるが、スキルが上がれば顧客を導くような応対ができるようになる。これは日々の勉強の成果だ。

 嘆かわしいことに、教育を日常業務に組み込んでいるセンターも、勉強を日常に組み込んでいるオペレータも少ないのが現状だ。「全労働時間の5%ほどを教育や勉強に費やすべき」という説もあるが、ほとんどのセンターやオペレータは、かの与作と同じ状態だ。切れ味鋭い応対で、クレームを見事に解決となって欲しいが、暇がないから教育も勉強もできず、いつも顧客に振り回される。丸まった刃先のまま木を切り続けるのか、それとも思い切って、ここでしっかりと刃先を研ぐか――選ぶ道のゴールは大きく異なる。


(コンピューターテレフォニー2012年1月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時46分 更新

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